シリーズ・日本ワインが生まれるところ。長野『ドメーヌ・コーセイ』にインタビュー!

日本ワインは人とブドウのストーリーから生まれます。ますます日本ワインが好きになる、そんな素敵なワイナリーを、wa-syuが独自取材で紹介。Vol.6は、長野県塩尻市片丘の『ドメーヌ・コーセイ』。

バラの花がアイコン。経験に裏打ちされた、エレガントで豊かな味わいのワイン造りが『ドメーヌ・コーセイ』のスタイル。

1980年代にフランスでワインを学び、日本ワイン界のレジェンド・麻井宇介(あさいうすけ)さんの薫陶を受け、バラの名前がついた圃場を持つ日本有数のベテラン醸造家。味村興成(あじむらこうせい)さんが2019年に自社ワイナリーを設立したというニュースを受け、日本ワイン好きなら誰もが期待し、彼の造るメルローを口にしてみたいと感じたのはないでしょうか。数々の伝説に彩られた味村さんですが、お話してみると実に気さくで、優しく知的な人柄。周囲の人を巻き込みつつ、ワイン造りに邁進するその姿をお届けします。

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研究に没頭したり、ひたすらグルメを味わったり。味村興成さんがフランスへの留学で知った、極上のワインへの多角的なアプローチ。

「実家は山口県岩国市でお酒の業務用卸業を営んでいましたので、自然とお酒のある環境に慣れ親しんできました。また叔父が大学のドイツ語の教授で、ドイツワインに造詣が深かったんですね。その影響もあって、これからは西洋の食文化を知っていかないと、と考えて山梨大学に進学し、ワインについて学びました」と語る味村さん。「メルシャン(当時は三楽オーシャン)に入社してすぐ、酒類研究所という研究機関の蒸留酒の部門に配属されました。1983年、宝酒造が始めて"缶チューハイ"を出して大流行したころで、大手の酒造メーカーはまだそういったものを出していなかった時代です」。日々蒸留酒の研究を続けながらも、ワインの仕事がしたい!と考えていた味村さん。「社員旅行の時に上の人に直談判したら(笑)ワインの担当にさせてもらって。それからずっと、ワインの道です」。その後味村さんは1988年、ボルドー大学へ入学するべくフランスへ旅立つことに。「会社から"とりあえず一年行ってこい"と言われて(笑)、授業を受けながら研究室にも入って、ポリフェノールなどの研究をしていました。そうして一年半経ったとき、"パリ事務所に欠員が出たので来週から行ってくれ"と連絡が入って、あわてて引っ越し。ちょうど湾岸戦争が勃発して、日本ではバブルがはじけたころでしたが、パリでは取引先のお客さんがたくさん来るので、毎日ミシュラン本を見てはひたすらレストランを予約し、食事をしてワインを飲むのが仕事でした。そんなフランスでの生活が3年半ほど続き、ワイン造りとは離れた時期もありましたが、世界でも最高峰のワインをたくさん知ることができた、貴重な日々でした(味村さん)」。

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現代日本ワインの父・麻井宇介さんの姿を目の当たりにして学んだこと。

ワイン醸造家であり評論家として、数々の著作もある麻井宇介さんは、映画『ウスケボーイズ』のモデルにもなった人物。麻井さんの薫陶を受けた青年たちによって、日本ワインが大きな転換期を迎えたとも言われる、まさしく"現代日本ワインの父"です。その麻井さんは、実は味村さんにとってはメルシャン勤務時代の大先輩。「めちゃくちゃ怖い人です(笑)。でも僕の時はまだギリギリ現役で怖い感じでしたが、先輩たちに聞くと昔はもっと怖かったらしい(笑)。工場の中をポケットに手を突っ込んで歩いていたら翌週転勤になっていた、というエピソードがあるくらい、礼儀にも厳しい人でしたね。でももちろん、学ぶこともすごく多かった。私がパリに駐在しているとき、麻井さんが2〜3回来仏して、二人でいろいろ回ったりしましたが、"明日どこそこに行ったらこんな質問するから"と、日本語のリストを渡される。明日の朝までにフランス語で通訳できるようにしておかなくてはと、もう眠れなかったですよ(笑)。しかも麻井さんのすごいのは、質問の内容は、全てもう本で調べて知っていることで、それを確認するために聞いてるんですね。今みたいにインターネットもない時代に、すごい知識を蓄積していて。多くは語らない人でしたが、全てお見通しという感じ。テイスティングも全てブラインドで先入観なしで、それができないと相手にもしてもらえない。麻井さんとテイスティングするときは、ものすごく緊張しましたが、本当に勉強になりました。『ウスケボーイズ』は麻井さんが第一線を退いて、若い人を日本のワイン産業のために育てようとしていた時のこと。麻井さんも孫を見ているような感じで、すごく優しくなったなと感じました(味村さん)」。

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『ドメーヌ・コーセイ』が造っているワインは、全てメルロー。塩尻地区のメルローにこだわり続ける、その理由とは?

もともとはメルシャンの勝沼工場で、日本固有種である甲州を使ったワイン造りに貢献する機会も多かった味村さん。ところが現在育てているのは全てメルロー種で、ワインもメルローを使ったものだけです。「私たちの圃場は、信州桔梗ヶ原ワインバレー。このあたりでは、かつてはコンコード種やナイアガラ種などのアメリカ系のブドウが多く栽培されていました。これは、元々このあたりが甘味果実酒の原料の供給地だったため。寿屋(現サントリー)の赤玉ポートワインや、メルシャンの大黒ハニーワインのために、ブドウを生産していたんです(味村さん)」。ところが、甘味果実酒の出荷量が減ってきてしまい、代わりに食事と一緒に楽しめるテーブルワインの出荷量や消費量が大きくアップ。1976~77(昭和51~52)年ごろには、その出荷量が逆転してしまいました。「当時、メルシャンの勝沼工場の製造課長をやっていた麻井さんは大きな危機感を持ち、栽培農家の皆さんに集まってもらいました。そして"このままコンコードやナイアガラを作り続けても、買い支えることができなくなる。ワイン専用品種を植えてくれませんか"と提案しました。1976(昭和51)年、桔梗ヶ原の公民館でのことです。それに賛同したのが、『五一わいん』の林五一さんと息子さんの林幹雄さん。寒いところでも育つ品種を探して山形に行き、桔梗ヶ原にメルロを持ち帰ったそうです。藁で養生するなど、根付かせるまでは大変だったようですが、試行錯誤の末、素晴らしいメルローが収穫できるように。海外で幾度も金賞を受賞するなど、"桔梗ヶ原メルロー"の名を世界にアピールできたんです。私も日本の赤ワインで最高のものが出来るのは、やはりここだと思っています(味村さん)」。先達の築いてきた歴史を踏まえ、適品種を見極めて、真摯に造り続ける…。そんな味村さんの姿勢が、メルローから垣間見えます。

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暑い日も寒い日も、丁寧な作業を積み重ねて。極上のメルローを収穫するために造られた美しい圃場。

定年まで2年を残して、現場でのモノづくりがしたい!とメルシャンを退職し、2016年から、自らの圃場でメルローを植え始めた味村さん。栽培を担当する、チーフヴィンヤードマネージャーの川端志津さん(左)と、チーフエステートマネージャーの五味祐一郎さん(右)にも話を聞きました。ちょうどこのときは、"芽かき"という作業をしていたお二人。「5月には出てきた枝の中から、来年使う枝、再来年に使う枝を取捨選択して余分な枝を取り除きます。混んでいるところによく日が当たるようにするのと、風が通るようにするという目的もあります。また、枝の数が多いと栄養分も分散してしまうので、あらかじめ芽の数を減らすんです。さらに7月には摘房という作業もあり、さらに房の数を減らします(川端さん)」。「芽かきは、見極めを誤ると"かき取りすぎ"の状態に(笑)。あ、やっちゃった! というときもあります。なぜか思った方向に伸びず、反対方向に行ってしまったり…。やはり難しいですね(五味さん)」。「私たちの畑はまだスタートしたばかり。塩尻市の斡旋で畑を借りましたが、最初は地元の人たちも遠巻きに見ていた感じでした。でもこの二人が、寒い日も暑い日も黙々と作業しているのを、やっぱり見てくれている人がいるんですね。最近は、私たちに休耕地を借りて欲しいという依頼もいただいたりして、ようやく少し地元に馴染んできたのかな、という感触があります(味村さん)」。

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それぞれの畑には、アルファベット順にバラの名前が冠せられて。一見ロマンチック、実は苦労も多い、圃場のバックストーリー。

「畑は全部で13あって、それぞれにアルファベットをAから順番に振って、そのアルファベットで始まるバラの名前をつけているんです。ワイナリーのアイコンもバラ。傍らでバラの苗も育てているんですよ」と味村さん。ロマンチックだと思いきや、このバラにはちゃんと理由があるそう。「ブドウが病気にかかる場合、一足先にバラが同じ病気にかかる、と言われています。いわば、病気のセンサーのような役割を果たすのがバラで、フランスなどではよく、ブドウ畑に植えられているのを見かけるんですよ。今ではそれほど化学的根拠はないとも言われますが、ワイナリーにそういったストーリーがあってもいいかな、と思っています(味村さん)」。これらの畑は10ヘクタールを超えますが、栽培面積自体はわずか50%だそう。またここでおこなわれている、一本の幹から2本の枝を出す垣根仕立ての"ギヨ・ドゥーブル"という手法は、非常に手間がかかることでも知られています。「あとここの土壌は、石がいっぱい入っているのですごく水はけがいいんです。雨がたくさん降ってもすぐに乾いたようになる。ブドウのためにはいいのですが、草刈り機の刃が石にあたって、すぐにダメになってしまうんです。草との戦いも大変です。あと心配なのはやはり天候ですね。こればかりは人間の手ではどうしようもないので…。秋の長雨、台風など、心配ごとは絶えません(味村さん)」。

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ステンレスタンクからワイナリーを象徴する樽まで。醸造の現場、ワイナリーにも味村さんならではのこだわりが満載。

続いて、ワイナリーも案内してくれた味村さん。タンクや通路など、ひとつ一つに味村さんのこだわりの設計が光ります。合理的かつ効率よく計算された設備は、最高のワインを造るという目的のために吟味されたものばかりです。「ステンレスタンクは、足をつけて高くしてありますが、これには理由があります。発酵させたワインを抜き出すときになるべくワインに負担をかけないように、タンクの下に圧搾用のバスケットが入る仕組みにしています。そのままもろみを流せるんです(味村さん)」。液を抜き取るときにポンプなどで激しく吸引したり、かき混ぜたりしなくても大丈夫なので、より雑味を減らすことができるそう。また、畑の広さや収量に合わせてタンクの大きさを変えていますが、高さは均一に揃えているそう。上部には通路が水平に走っており、ここに上って作業もします。「バスケットプレスはフランス・ブーハー社のもの。まだ日本にはほとんど入ってきていないと思います。除梗機も同じくブーハー社の最新鋭"Delta Oscillys(デルタ・オシリス)"で、もろみに細かい茎の混入を少なくなる仕組みになっていて、ブドウを優しく除梗をしてくれる優れものなんです(味村さん)」。

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樽を置いてあるセラーも壮観!歴史あるフランスのNADALIÉ社の樽や、アメリカCANTON社の樽が、美しく並んでいます。同じメルローを樽の違いで味わえる「KATAOKA MERLOT 2020 FRENCH OAK」「KATAOKA MERLOT 2020 AMERICAN OAK」など、プレミアムな楽しみ方の提案は味村さんならでは。

写真左から:
KATAOKA MERLOT 2020 FRENCH OAK/4,950yen(税込)
KATAOKA MERLOT 2020 AMERICAN OAK/4,950yen(税込)

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『ドメーヌ・コーセイ』で唯一のロゼワイン、「MERLOT ROSE 2021 無濾過 極辛口」。ステンレスタンクで、低温でゆっくりと発酵させ、果実味を生かしたワインに仕上げています。ブドウのおいしさを最大限に活かすために無澱下げ・無冷凍・無濾過・無加熱で瓶詰め。フランボワーズなどの赤系果実の香りや白桃のような香りが特徴で、フレッシュさが身上です。

※画像はイメージです。2021ヴィンテージは完売しました。現在の取り扱いは、2022ヴィンテージです。
MERLOT ROSE 2022 無濾過 極辛口/3,190yen(税込)

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"プライムシリーズ"は、同じ長野県内でも異なる地区の畑で収穫されたメルロー、異なる樽で育成した赤ワイン。どれも味村さんの哲学が反映された、飲みごたえあるエレガントなミディアムボディの赤ワインに仕上がっています。「メルロ 401 桔梗 2020」は、塩尻市桔梗ヶ原地区産のメルローを使用し、アメリカンオークで約7カ月間樽育成。「メルロ 503 塩尻 2020」は、塩尻市産のメルローを使用し、アメリカンオークとフレンチオークで樽育成したワインをベストな比率でブレンド。「メルロ 601 信州 2020」は、長野県産のメルローを使用し、フレンチオークで樽育成。エレガントな樽香の余韻が心地良く長く感じられます。いずれも、すぐに飲んでも美味しいけれど、今後の瓶熟成によってもっと楽しめる逸品です。

写真左から:
メルロ 601 信州 2020/3,850yen(税込)
メルロ 503 塩尻 2020/3,850yen(税込)
メルロ 401 桔梗 2020/3,850yen(税込)

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ドメーヌ・コーセイ
長野県塩尻市片丘:(株)Domaine KOSEI

ドメーヌ・コーセイ(Domaine KOSEI)は、フランスでワインを学び、日本ワイン界のレジェンド・麻井宇介(あさいうすけ)さんの薫陶を受けた日本有数のベテラン醸造家・味村興成(あじむらこうせい)さんが2019年に設立。「塩尻の地で、メルローのみでワインを造る」という先人の想いを引き継ぎ、メルロー100%のワインを造り続けています。保水性と水はけのよさを兼ね備えた塩尻の地層はメルローのうまみを凝縮させ、個性を際立たせています。

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日本ワインで、日本をもっと深く知る。
エリア別ワイナリーガイド

日本の感性と職人技を生かした名品が次々と誕生し、国内外の食通を惹きつけながら、進化し続ける日本ワイン。南北に長い日本列島の各地で栽培・収穫されたブドウのみを使用し、日本国内で製造された「日本ワイン」は、その地域の気候や品種によって性質もさまざまで、そのため多様性に富んだ味わいが特徴です。北は北海道、南は九州・沖縄まで。日本全国より、wa-syuが厳選した40以上のワイナリーをエリア別ガイドでご紹介します。

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